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札幌高裁平成18年5月26日判決-CT、MRIで所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例その1-

現在、自賠責保険においては、高次脳機能障害について、CT、MRIにおいて、所見が認められない限り認定しないという状況が続いています。
 
しかしながら、裁判においては、わずかではあるものの、CT、MRIで所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例が存在します。
 
この札幌高裁平成18年5月26日判決は、その中でも最も有名な裁判例です。
 

事案の概要

事故状況は、母親が運転し、本件被害者が後部座席に同乗していた軽自動車が赤信号で停車したところ、後方からトラックに追突されたというものでした。
被害者には、CT、MRIにおいて所見が認められませんでした。
意識障害についても、追突された瞬間に「目の前が真っ暗になった」という程度の軽微なものでした。

自賠責保険は非該当の判断でした。

しかしながら、裁判所は、被害者が事故により高次脳機能障害を負ったと判断し、後遺障害等級3級3号に該当すると認定しました。
 

認定のポイント

この札幌高裁平成18年5月26日判決は、CT、MRIで所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定したという点ばかりがクローズアップされがちですが、よくよく読み込むと、認定のポイントがいくつかあったことが見えてきます。
 

事故の衝撃

軽自動車に後方から、トラックが追突したという事故態様であり、車両の修理代は、合計5万円に過ぎないものでしたが、運転していた母親が後遺障害等級12級の認定を受けています。
つまり、事故の衝撃は、少なくとも、12級の後遺障害が生じうる程度のそれなりの大きさであったことが分かります。
 

画像所見

CT、MRIにおいては、所見はないものの、PET、SPECT、MRSでは、所見が認められています。
つまり、本人が訴える自覚症状だけではなく、十分に評価が定まっていない検査方法ではあるものの、複数の科学的検査で、所見が認められています。
 

意識障害

自賠責保険が求めているような重度の意識障害は存在しなかったものの、追突された瞬間に目の前が真っ暗になったという程度の軽度の意識障害は、一応存在しました。
 

症状

事故時、高校1年生ということもあり、事故前後の学業成績、試験の結果から、客観的に一定の傾向が認められました。
また、神経心理学的検査において、高次脳機能障害の症状を裏付ける検査結果が認められました。
 

医師の診断

高次脳機能障害の発症を肯定する医師 3人
         条件付きで肯定する医師 2人
                否定する医師 1人
 
しかし、唯一の否定する医師は、裁判と無関係の研究論文において、本件の被害者の事案を現在の認定システムでは判断困難な症例として採り上げたことが判明したため、否定する意見の信用性がないと判断されました。
つまり、唯一存在した否定的な医師の意見は排斥されて、専門家である医師の意見は、肯定的なものだけが、残っていました。
 

裁判所の英断

裁判所は、判断の結び部分で、
「外傷性による高次脳機能障害は、近時においてようやく社会的認識が定着しつつあるものであり、今後もその解明が期待される分野であるため、現在の臨床現場等では脳機能障害と認識されにくい場合があり、また、昏睡や外見上の所見を伴わない場合は、その診断が極めて困難となる場合があり得るため、真に高次脳機能障害に該当する者に対する保護に欠ける場合があることをも考慮し、当裁判所は、控訴人が本件事故により高次脳機能障害を負ったと判断する。」としました。

この後半部分の、「真に高次脳機能障害に該当する者に対する保護に欠ける場合があることをも考慮し、」という部分が非常に重要です。
 
裁判所は、要は、被害者が可哀想だから救済すると言っているのです。
この記載は、かなり大胆な記載であり、裁判所も思い切った記載をしたという印象を受けます。
 
 

コメント

以上のようなポイントが功を奏して、高次脳機能障害が認定されたと思われます。

特に、5人の医師が肯定的な意見を表明していたことが大きな影響を与えたと思われます。
高裁で、鑑定が行われたため、5人もの医師の肯定的な意見が集まったともいえますが、通常、費用や手間暇もあり、なかなか、別々の医師5人もの肯定的な診断書を集めることは難しいです。
 
ただ、この裁判では、被害者にとって、非常に幸運だったことが2点ほどありました。
1つは、被害者が、事故時に高校1年生であったことです。
学生であるがゆえに、中学時代の各種試験の結果や、通知表が存在し、事故以前の被害者の能力をかなりの程度、正確に知ることができました。
また、高校時代の各種試験の結果等により、事故後の被害者の能力についても、かなりの程度、客観的に知ることができました。
それによって、裁判所も自信を持って、被害者の事故前後の能力の変化をかなり正確に知ることができたといえます。
 
これが、社会に出た一般の方とは大きく異なる点でした。
被害者が既に社会に出てしまっていると、定期的に同種の試験を受けるようなことはないため、「ミスが多くなった」とか、かなりの程度、定性的な、もやっとした変化しか証明できません。
 
もう1つは、裁判官の英断です。
実際的には、これが一番大きいといえるでしょう。
前述のとおり、裁判所は、はっきりと、被害者が可哀想だから救済すると明言しています。
このような判決を書くことができる肝の据わった裁判官に事件を担当してもらえたことが、本件の被害者の最大の幸運だったといえます。

 
それゆえに、非常に重要な意味を持つ裁判例ではあるものの、一般化することは難しいです。

ただ、いずれにしても、CT、MRIで所見が認められないからという1点で、高次脳機能障害の主張を直ちに諦めなくてはならないということではない、ということを明らかにしたという意味で、非常に大きな意味を有する裁判例といえます。

本裁判例によれば、CT、MRIで所見が認められなくとも、以下の
場合には、訴訟により、救済される余地があると考えることができます。
 
   短時間であっても意識障害が存在する
 2   PET、SPECT、MRS等の複数の検査で所見が認められる
 3   事故前後の変化について、神経学的検査以外で、客観的に証明できる証拠がある
 4    複数の医師が高次脳機能障害と診断している