交通事故の被害者の方で、医師から、「事故から150日間しかリハビリを実施することができない」と説明されたと仰って相談にいらっしゃる方が時々いらっしゃいます。
リハビリについての150日ルールとは、健康保険を使用してリハビリを受ける場合の診療報酬を算定する際のルールです。
リハビリの対象となる部位に応じて、所定の点数が算定できる日数の上限が定められています。
交通事故で実施されることの多い運動器のリハビリの場合、発症から150日が一応の上限として定められています。
このルールに基づいて、「事故から150日しかリハビリはできませんよ。」と初診時から説明される医師もいらっしゃるようです。
交通事故の被害者の方にも一定の過失が認められる場合には、自己負担額を下げるべく、単価の低い健康保険を使用されているケースが少なくありません。
そのような場合は、このルールに抵触する恐れが出てきます。
もっとも、この150日のルールについても、例外が認められています。
「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合」等には、150日を越えても、一定の限度でリハビリを継続することが認められています。
ただし、例外的にリハビリの継続が認められるケースでも、診療報酬算定にあたり所定の点数が算定されるのは、1ヶ月13単位(1単位20分)に限定されています。症状が重篤な場合、極めて不十分といわざるを得ません。
また、所定の点数についても、150日以前より低く設定されています。
そのため、医師というよりは病院単位で、経営の観点から、150日を越えてのリハビリには積極的でないように感じられることがあります。
したがいまして、健康保険を使用している場合には、151日目以降のリハビリをどうすべきか、一定の考慮が必要となります。
医師において、150日を越えてもリハビリを継続できる例外に該当すると診断してくれれば、1ヶ月13単位(1単位20分)と少ないですが、リハビリを継続することができます。
しかし、ほぼ治癒に至っているという場合以外、1ヶ月13単位(1単位20分)では不十分な場合が多いと思料されます。
また、前述のとおり、150日を越えると、診療報酬算定の基礎となる所定の点数が低く設定されているため、医師において、例外を認めることに積極的になりにくいということもあります。
それでは、医師が例外として認めてくれそうにない場合、あるいは、例外として認めてくれたものの1ヶ月13単位では不十分な場合、どのように対処すれば良いでしょうか。
(医師が例外として認めてくれそうにない場合とは、本来的にはリハビリの継続が必要であるものの、健康保険のルール上、診療報酬が下がってしまうことから、例外として認めてくれそうにない場合です。
医学的に純粋にリハビリの必要性がないという場合は、やむを得ないといえます。その場合は、症状が残存しているのであれば、症状固定として、リハビリを終了するほかないといえます。)
そのような場合、加害者の任意保険会社が一括対応を継続して治療費を支払ってくれている状況であれば、151日目以降、健康保険の使用を取り止めて、自由診療に切り替えて、リハビリを継続することが考えられます。
しかしながら、150日を越えてから自由診療に切り替えることに、任意保険会社が了解しないことも十分に考えられます。
自賠責保険の傷害分の120万円の枠が残っているケースでは、任意保険会社が認めないということであれば、一旦治療費を立て替えて、自賠責保険会社に被害者請求するということが理論的には考えられます(ただし、自由診療で毎回立て替えていくことは、金額が多額に及ぶことから、現実的には容易ではないです。)。
自賠責保険の枠が既にない場合は、一旦、自由診療で治療費を立て替えておいて、その領収書を保管しておき、最終的に、加害者の任意保険会社に請求していくということも考えられます(この場合、支払を受けられないリスクが残ってしまうことにはなります。)。
いずれにしても、難しい状況にあることは確かです。
また、上記のようなケースとは異なり、健康保険を使用していないにもかかわらず、医師において、150日ルールの説明をしてくることもあるように見受けられます。
このような場合、医師において、150日ルールが、健康保険を使用する際のルールであることを十分に理解されていないように感じられることが少なくありません。
その場合、150日ルールは、あくまで健康保険を使用するに際してのルールであり、自由診療を前提とした交通事故の治療には適用がないことを、丁寧に説明して理解して頂く必要があります。
ただ、病院として、一律、健康保険のルールにリハビリの上限を合わせてしまっている場合もあり得ます(確かに、自由診療を前提とした交通事故治療であろうが、健康保険を使用した治療であろうが、医学的なリハビリの必要性は変わらないはずともいえますので、全く不合理とはいえません。)。
病院のルールといわれてしまうと、苦しいところです。
そのような場合は、治療の途中で他の病院に転院することを考えるほかありません。
交通事故の治療において、途中で転院すると、症状が残存してしまった場合でも、「途中の経過が分からないので、後遺障害診断書は書けない」といわれてしまうことがあります。
また、後遺障害診断書を書いてくれる場合でも、最初の病院の医療記録の記載との不整合が生じることがあるなど、不利益が生じることが少なくないです。
そのため、治療途中での転院は、あまりお勧めはできないのですが、リハビリを機械的に150日で終了させられてしまうことによる不利益と比較考量して、方向性を定めるほかありません。
以上のように、リハビリの150日ルールを持ち出されると一筋縄ではいかないことが多いです。
150日ルールでお困りの際は、専門家にご相談されることをお勧め致します。
弁護士 丹羽 錬