交通事故の被害者側に特化した札幌の法律事務所

桝田・丹羽法律事務所

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懲罰的損害賠償を認めた裁判例

2018/12/13

懲罰的損害賠償とは、加害行為の悪質性や反社会性が高い場合に、将来の同様の行為を抑止する目的で、実際の損害の賠償を上回る賠償額を課すことをいいます。
 
アメリカやイギリスでは採用されていますが、日本では採用されていないとされています。
 
日本の不法行為法における損害賠償の目的は、不法行為によって生じた損害を塡補することであるとされていて、不法行為を行ったものに対する制裁や、不法行為の抑止は、刑事法や行政法の目的であると考えられています。
 
実際、制裁的な慰謝料を求めた京都地裁平成19年10月9日判決の事案では、明確に排斥されています。
 
【事案の概要】
大型商業施設内の駐車場にて、8歳の男児が、加害者の前方不注意により加害車両に衝突され轢過されて亡くなられたという事案です。
 
加害者は、速度超過、整備不良運転の罰金前科を有していたほか、赤信号無視等の交通違反歴が12件あり、過去2回の運転免許停止処分を受け、事故当時は3回目の運転免許停止中でした。
 
被害男児のご両親らは、制裁的慰謝料の請求を求めていました。
 
【裁判所の判断】
「原告らが主張するところは、原告らが実際に被った損害以上の賠償(いわゆる懲罰的損害賠償)が認められるべきというものである。しかしながら、不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁大法廷平成5年3月24日判決・民集47巻4号3039頁参照)、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではなく、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。したがって、不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、上記の不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであるから(最高裁第二小法廷平成9年7月11日判決・民集51巻6号2573頁参照)、懲罰的損害賠償を認めることはできないものといわざるを得ず、原告らの主張を採用することはできない。」
 
加害者の前科、前歴、結果の重大性を考慮すると、かなり酷い事案といえますが、原則どおり否定されています。
 
しかしながら、懲罰的損害賠償を認めた裁判例も存在します。
 
京都地裁平成元年2月27日判決です。
 
【事案の概要】
マンション建設に際して、施工業者と建設に反対する近隣住民とが再三交渉を重ねた結果、作業時間等について、合意がなされたにもかかわらず、施工業者が故意に、合意に違反して工事を行ったという事案です。
 
【裁判所の判断】
「右認定のように故意による債務不履行の場合には、懲罰的ないし制裁的性質を有する慰藉料の支払義務を科することができるものと考える。
わが民法においても、米法上いわれているのと同様に、当事者は予見可能な損害さえ賠償すれば契約を破り、経済的合理的計算により他の契約と乗り換えることもでき、いわば、契約を破る自由なるものが認められてよい場合があるが、これは損害賠償の負担を前提としていえることであり、しかも、通常の商品売買などの取引的契約の違反についていい得るものであるから、前認定のように原告らが苦心と努力の結果、建築工事に伴う騒音等による精神的苦痛を防止する目的で成立した本件和解条項に違反する行為を故意に敢えて行なった本件では、それ自体違法な行為であるから予見される具体的な騒音等による財産的損害、精神的損害が立証されない場合でも、なお、債務不履行ないし契約違反自体による精神的苦痛に対し、その違反の懲罰的ないし制裁的な慰藉料の賠償を命ずるのが相当である。」
 
裁判所は、「懲罰的ないし制裁的な慰謝料の賠償を命ずるのが相当」と明言しています。
 
地裁の裁判例が1つあるからといって、直ちに交通事故事案にも援用できるかといえば、そんなに簡単な話ではありません。
 
しかしながら、故意による債務不履行事案とはいえ、懲罰的ないし制裁的な慰謝料を認めた裁判例が存在すること自体、大きな意義があるといえます。
 
弁護士 丹羽 錬

物損についての慰謝料について

2018/02/01

CIMG2260.JPGのサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像最近、事故前から身体障害をお持ちであった被害者の方が、交通事故により大切に使用していた車椅子を損壊されていまい、大変苦労されたとのことで、「物損に関連する慰謝料はやはり認められないのでしょうか」との相談を受けました。
 
交通事故により、車両や積載物等の物に損傷が発生することがあります。
このような場合、損傷部分の修理費用等の損害賠償請求は通常認められますが、物損に関連する慰謝料は認められない、というのが実務における原則的な取扱いになっています。
 
民法710条は、「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と規定しており、財産権侵害の場合にも、慰謝料を請求し得るとされています。
 
ただ、実務上は、物損に関連する慰謝料は「原則として、認められない」という考え方のもと、「特段の事情」が認められる場合を除いて、物損に関連する慰謝料の請求は認められていないのが現状です。

「特段の事情」として、以下の例が挙げられています(平成20年赤本講演録浅岡千賀子裁判官執筆部分)。
 
①被害物件が被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有し(ただし、そのような主観的・精神的価値を有することが社会通念上相当と認められることを要する。)、単に財産的損害の賠償を認めただけでは償い得ないほど甚大な精神的苦痛を被った場合
 
②加害行為が著しく反社会的、あるいは害意を伴うなどのため、財産に対する金銭賠償だけでは被害者の著しい苦痛が慰謝されないような場合。
 
以下のとおり、過去の裁判例上、被害物件が建物、墓石、ペットに関して、決して高額ではないですが、物損に対する慰謝料が認められています。 
 
店舗兼居宅 金30万円(大阪地判平元・4・14)
家屋    金50万円(岡山地判平8・9・19)
墓石    金10万円(大阪地判平12・10・12)
愛犬    金5万円(東京高判平16・2・26)
愛犬    金20万円(名古屋高判平20・9・30)
 
冒頭のご相談者の方には、上記の基本的な考え方をご説明させていただき、相談は終了となったのですが、大切にしていた車椅子という特殊事情があったため、かなり悩ましいケースでした。
 
裁判所が厳しい立場を採用しているため、物損に対する慰謝料を請求することは原則的には難しいのですが、「物損に関連する慰謝料は認められない」と直ちに諦めるのではなく、個別事案ごとに、前述した「特段の事情」について十分に検討することが重要です。
 
物損に関する慰謝料について、ご懸念がある場合はお気軽にご相談下さい。
 
弁護士 桝田泰司

実通院日数が少ない場合の傷害慰謝料について

2017/10/30

mizunashi.JPGのサムネール画像
交通事故被害者の方から、「保険会社から提示された慰謝料の金額が適正であるのかどうか、分からない」とのご相談を受けることが良くあります。
 
慰謝料に関しては、傷害部分の慰謝料と後遺障害部分の慰謝料に分けて算定されるのが通常ですが、今回は傷害部分の慰謝料について、ご説明致します。
 
交通事故に遭われてケガをして、治療のために入院したり、医療機関に通われた場合、傷害慰謝料(「入通院慰謝料」ともいいます。)が交通事故に基づく損害として支払われます。
 
傷害慰謝料は、基本的には、入院した期間と通院した期間の長短に応じて金額が算定されています。入通院した期間が長くなると、支払われる傷害慰謝料の金額も大きくなるのが通常です。
 
実務においては、入通院期間を基にした傷害慰謝料の額の算定について、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)が参照されます。
これを参照して、基本的には入通院した期間を基に、傷害慰謝料の額を算定します。
 
<入通院した期間とは?>
・事故後、治療のために入院し、退院後、通院した場合
→基本的には、「入院期間」は実際に入院した期間、「通院期間」は「事故に遭った日」から「治療が終了した日」までの期間から「入院期間」を差し引いた期間になります。
 
・事故後、治療のために通院のみした場合
→基本的には、「通院期間」は「事故に遭った日」から「治療が終了した日」までの期間になります。
 
 
被害者の方の中には、通院期間は長い期間になっているけれども、実際に病院や整骨院等に通った日数(「実通院日数」といいます。)が少ないという方がいらっしゃいます。
 
例えば、交通事故で骨折したものの、医師から「骨が自然にくっつくのを待ちましょう。」と言われたため、治療終了までには6ヶ月(通院期間は180日)かかったが、実際に病院に行った回数は、経過観察のための月1回の通院(実通院日数6日)のみだったという場合が考えられます。
 
通院期間6ヶ月に対応する傷害慰謝料の額は、骨折の場合、赤い本によると大体116万円が目安となります(骨折の場合と異なり、むち打ち症で他覚所見がない場合は、通院期間6ヶ月の場合、89万円が目安となります。後述の(※)参照)。
 
しかしながら、赤い本には、以下のような記載があります。
 
「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」
 
この記載をもとに、保険会社が、実通院日数が少ない場合に、実通院日数の3.5倍を通院期間として傷害慰謝料を算定することがあります。
つまり、上記の事例で言えば、実通院日数(6日)の3.5倍である21日を通院期間として傷害慰謝料を算定してくるということです(通院期間が21日の場合の傷害慰謝料の額の目安は、19万円程度となり、額が大幅に下がります。)。
 
しかし、傷害慰謝料は、交通事故によって傷害を負ったことにより被ったあらゆる精神的苦痛を慰謝するものです。
単純に実通院日数が少ないことのみをもって、通院期間について実通院日数の3.5倍を用いるのは、妥当ではありません。
骨折の方であれば、通院せずに自宅で安静にしていたとしても、痛みや生活上の不便を被り続けているわけであり、それらによる精神的ダメージを考慮しなければ、適正な慰謝料とはいえません。
 
そして、赤い本の記載において「目安とすること『も』ある」とされているとおり、実通院日数の3.5倍程度を目安とするのは例外的な場合に限られているといえます。
また、「症状、治療内容、通院頻度をふまえ」とあるとおり、症状や治療内容なども考慮すべきことを示唆しています。
 
したがって、実通院日数が少ない場合でも、通院期間として実通院日数の3.5倍を目安として算出された傷害慰謝料の額が適正ではないことが少なくありません。
 
実通院日数が少ないことを理由に保険会社から低額の慰謝料を提示されてお困りの方、実通院日数が少ないために低額の慰謝料の提示をされるのではないかとご不安な方は、お気軽にご相談下さい。
 
※通院期間が6ヶ月で傷害慰謝料として116万円が目安とされるのは、むち打ち症で他覚所見がない場合や軽い打撲・挫創の場合以外で、1週間に2~3回程度、病院ないし整骨院等に通った場合と言われています。
 
弁護士 水梨雄太

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当事務所は、交通事故の被害者側に特化した法律事務所です。交通事故事件に関する十分な専門性・知識・経験を有する弁護士が事件を担当致します。
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