後縦靭帯の骨化等を理由に素因減額を認めた裁判例-東京地判平成13年4月24日-
2015/05/06
本件は、事故以前から存在した脊柱管狭窄、後縦靭帯の骨化を理由として、30%の素因減額が認められた事案です。
事故の衝撃
事故態様は、停止していた被害車両に左後方から加害車両が衝突したというものです。
判決では、比較的軽微な事故であり、一般に脊髄症状を引き出すような事故ではないと評価されています。
後遺障害の程度
脊髄症状 9級10号
35%の労働能力喪失率とされる後遺障害等級9級が認定されています。
比較的、重い後遺障害と評価できます。
事故前の後縦靱帯骨化症の症状の発症の有無
事故前には、脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の治療を受けたことはなく、症状が出現したこともないと認定されています。
つまり、脊柱管狭窄、後縦靱帯の骨化は存在したけれども、症状は発症していなかったということになります。
事故時の脊柱管狭窄率
具体的な脊柱管の狭窄率は認定されていませんが、第四、第五頸椎の狭窄が著明と認定されています。
素因減額の理由
裁判所は、以下のような理由を挙げて、30%の素因減額を認めました。
①脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症のいずれも難病に指定されている
②本件交通事故のみを契機として、脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症が発症したとは考えられない
③本件交通事故がなくても、日常生活等により、同様の症状が発症した可能性がある
コメント
本件は、判決文の記載が簡素なため、裁判官の心証を読み取るのが困難な裁判例です。
ただ、軽微な事故であるにもかかわらず、脊髄症状が発症したという点を重視しているように読み取れます。
つまり、裁判官は、事故態様と後遺障害の程度がアンバランスであると考えたために、素因減額を行う方向に心証を固めたように思われます。
比較的軽微と判断できる事故態様で、それなりに重い後遺障害が発症している場合には、軽い事故であっても、当該後遺障害が発症しうるというメカニズムを丁寧に立証する必要があると考えられます。
また、判決文で、「原告が事故前に罹患していた脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の程度についても、本件全証拠によっても明らかではない。」と認定されています。
脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の程度については、基本的には素因減額を主張する加害者側に立証責任があるはずですが、程度が軽微なのであれば、被害者側で立証を尽くす必要があったともいえます。
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