物損についての慰謝料について
2018/02/01
最近、事故前から身体障害をお持ちであった被害者の方が、交通事故により大切に使用していた車椅子を損壊されていまい、大変苦労されたとのことで、「物損に関連する慰謝料はやはり認められないのでしょうか」との相談を受けました。
交通事故により、車両や積載物等の物に損傷が発生することがあります。
このような場合、損傷部分の修理費用等の損害賠償請求は通常認められますが、物損に関連する慰謝料は認められない、というのが実務における原則的な取扱いになっています。
民法710条は、「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と規定しており、財産権侵害の場合にも、慰謝料を請求し得るとされています。
ただ、実務上は、物損に関連する慰謝料は「原則として、認められない」という考え方のもと、「特段の事情」が認められる場合を除いて、物損に関連する慰謝料の請求は認められていないのが現状です。
「特段の事情」として、以下の例が挙げられています(平成20年赤本講演録浅岡千賀子裁判官執筆部分)。
①被害物件が被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有し(ただし、そのような主観的・精神的価値を有することが社会通念上相当と認められることを要する。)、単に財産的損害の賠償を認めただけでは償い得ないほど甚大な精神的苦痛を被った場合
②加害行為が著しく反社会的、あるいは害意を伴うなどのため、財産に対する金銭賠償だけでは被害者の著しい苦痛が慰謝されないような場合。
以下のとおり、過去の裁判例上、被害物件が建物、墓石、ペットに関して、決して高額ではないですが、物損に対する慰謝料が認められています。
店舗兼居宅 金30万円(大阪地判平元・4・14)
家屋 金50万円(岡山地判平8・9・19)
墓石 金10万円(大阪地判平12・10・12)
愛犬 金5万円(東京高判平16・2・26)
愛犬 金20万円(名古屋高判平20・9・30)
冒頭のご相談者の方には、上記の基本的な考え方をご説明させていただき、相談は終了となったのですが、大切にしていた車椅子という特殊事情があったため、かなり悩ましいケースでした。
裁判所が厳しい立場を採用しているため、物損に対する慰謝料を請求することは原則的には難しいのですが、「物損に関連する慰謝料は認められない」と直ちに諦めるのではなく、個別事案ごとに、前述した「特段の事情」について十分に検討することが重要です。
物損に関する慰謝料について、ご懸念がある場合はお気軽にご相談下さい。
弁護士 桝田泰司
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