交通事故の被害者側に特化した札幌の法律事務所

桝田・丹羽法律事務所

後縦靭帯骨化症を理由に素因減額を認めた裁判例-大阪地判平成21年6月30日-

2015/05/08


本件は、事故以前から存在した後縦靭帯骨化症を理由として、30%の素因減額が認められた事案です。
 

事故の衝撃

事故態様は、後部座席に被害者が乗車していたタクシーが、信号に従って前方に停止していた車両に衝突したというものです。
被害者は、事故発生時、後部座席で横になって眠っていたのですが、事故後、後部座席の足下に転落していました。
 
事故の衝撃の大きさについては、被害者側から、「9.4mの高さから落下したのと同等の外力」との立証がなされていますが、裁判所は、被害者が事故時に眠っており、後遺障害の発生メカニズムが正確には分からないため、後縦靱帯骨化症がない人でも、同様の後遺障害を負った蓋然性が高いとは結論づけられないとしています。
 

後遺障害の程度

第三頸椎レベル以下の知覚・運動・呼吸の完全麻痺 1級1号
 
非常に重い後遺障害です。
 

事故前の後縦靱帯骨化症の症状の発症の有無

事故前から後縦靱帯骨化症があったと認定されており、被害者側も、極めて軽微な症状があたことを認めています。
 

事故時の脊柱管狭窄率

事故の10ヶ月前のMRIにおいて、第二頸椎から第七頸椎にかけて、後縦靱帯の骨化があったと認定されており、最も狭い部分の狭窄率は50%と認定されています。
本件事故直後の狭窄率は65%程度と認定されています。
狭窄の程度は、かなり進んでいたと評価できます。
 

素因減額の理由

裁判所は、以下のような理由を挙げて、30%の素因減額を認めました。
①事故前から後縦靱帯骨化症があったこと
②本件事故前の狭窄率が50%であったこと
③本件事故直後の狭窄率が65%であったこと
④後部座席に横たわった状態から、足下に落下した際に、頸髄損傷を発症した蓋然性が高く、事故前からの後縦靱帯骨化症の影響を否定できないこと
 

コメント

本件は、事故前から後縦靱帯骨化症の症状が発症しており、事故時の狭窄率も50%と狭窄が進んでいたことからすれば、50%以上の素因減額も想定されうる事案です。
 
ただ、被害者側が、事故態様について、「9.4mの高さから落下したのと同等の外力」として、事故の衝撃の大きさを立証しています。
事故時の被害者の身体の動きについては、詳細には分からないのですが、事故の衝撃がそれなりに大きいということを立証したことが、功を奏したように思われます。
 
裁判官は、事故態様と後遺障害のバランスで、ざっくりとした素因減額の心証を持つように思われますので、事故態様が大きい場合には、そのことを科学的に丁寧に立証する必要があるといえます。


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後縦靭帯の骨化等を理由に素因減額を認めた裁判例-東京地判平成13年4月24日-

2015/05/06


本件は、事故以前から存在した脊柱管狭窄、後縦靭帯の骨化を理由として、30%の素因減額が認められた事案です。
 

事故の衝撃

事故態様は、停止していた被害車両に左後方から加害車両が衝突したというものです。
判決では、比較的軽微な事故であり、一般に脊髄症状を引き出すような事故ではないと評価されています。
 

後遺障害の程度

脊髄症状 9級10号
 
35%の労働能力喪失率とされる後遺障害等級9級が認定されています。
比較的、重い後遺障害と評価できます。
 

事故前の後縦靱帯骨化症の症状の発症の有無

事故前には、脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の治療を受けたことはなく、症状が出現したこともないと認定されています。
つまり、脊柱管狭窄、後縦靱帯の骨化は存在したけれども、症状は発症していなかったということになります。
 

事故時の脊柱管狭窄率

具体的な脊柱管の狭窄率は認定されていませんが、第四、第五頸椎の狭窄が著明と認定されています。
 

素因減額の理由

裁判所は、以下のような理由を挙げて、30%の素因減額を認めました。
①脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症のいずれも難病に指定されている
②本件交通事故のみを契機として、脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症が発症したとは考えられない
③本件交通事故がなくても、日常生活等により、同様の症状が発症した可能性がある
  

コメント

本件は、判決文の記載が簡素なため、裁判官の心証を読み取るのが困難な裁判例です。
ただ、軽微な事故であるにもかかわらず、脊髄症状が発症したという点を重視しているように読み取れます。
つまり、裁判官は、事故態様と後遺障害の程度がアンバランスであると考えたために、素因減額を行う方向に心証を固めたように思われます。
 
比較的軽微と判断できる事故態様で、それなりに重い後遺障害が発症している場合には、軽い事故であっても、当該後遺障害が発症しうるというメカニズムを丁寧に立証する必要があると考えられます。
 
また、判決文で、「原告が事故前に罹患していた脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の程度についても、本件全証拠によっても明らかではない。」と認定されています。
脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の程度については、基本的には素因減額を主張する加害者側に立証責任があるはずですが、程度が軽微なのであれば、被害者側で立証を尽くす必要があったともいえます。



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後縦靭帯の骨化を理由に素因減額を認めた裁判例-大阪地判平成12年6月28日-

2015/05/04

本件は、事故以前から存在した骨棘形成、後縦靭帯の骨化を理由として、20%の素因減額が認められた事案です。
 

事故の衝撃

事故態様は、停止していた被害車両に後方から加害車両が衝突して、被害車両がバンパーやテールランプに擦過様の損傷を受けたというものです。
修理代は、休車補償を含めて、約14万円ということであり、それほど大きな衝撃ではなかったと評価できます。
 

後遺障害の程度

脊柱の変形 11級7号
左下肢等の頑固な神経症状 12級12号
併合10級
 
27%の労働能力喪失率とされる後遺障害等級10級が認定されており、軽いとはいえませんが、非常に重い後遺障害ともいえません。
 

事故前の後縦靱帯骨化症の症状の発症の有無

被害者は、本件事故の約6年半前にも交通事故に遭っており、その際、「頸椎症と後縦靭帯骨化症の所見があるが軽度」との診断を受けていました。
ただし、本件事故前のかなりの間、痛みや痺れなどの症状はなかったと認定されています。
つまり、後縦靱帯の骨化は存在したけれども、症状は発症していなかったということになります。
 

事故時の脊柱管狭窄率

具体的な脊柱管の狭窄率は認定されていませんが、骨棘形成と後縦靱帯骨化が認められ、C5/C6の椎間孔が著しく狭小化していると認定されています。
 

素因減額の理由

裁判所は、以下のような理由を挙げて、20%の素因減額を認めました。
①本件事故の態様によれば頸椎に受けた衝撃は必ずしも大きなものではない
②本件事故だけで手術をしても改善されない重い後遺障害が残ったとは考えがたい
③後縦靱帯骨化等による椎間孔の狭小化などの素因が影響を与えている
 

コメント

本件は、事故後、頸椎の前方除圧固定術を行っているにもかかわらず、神経症状が後遺障害として残存しています。
この点が素因減額の判断に大きな影響を与えたように考えられます。
 
事故態様自体はそれほど大きくないのですが、後遺障害自体もそれだけを見ると10級と決して軽くはないですが、非常に重篤な後遺障害とはいえません。
事故態様と後遺障害の釣り合いが取れていないともいえないため、素因減額は認められなくともおかしくないように考えられます。
 
しかし、頸椎の前方除圧固定術を行っても、なお、12級として認定されるような神経症状が残存したということから、裁判官は、事故態様からして、通常生じうる後遺障害以上の後遺障害が残存したものと考えたようです。
 
ただし、素因としては、後縦靱帯骨化症の症状は事故以前には存在せず、椎間孔の狭小化が認められたという程度のため、20%という比較的、低い割合の素因減額という判断になったようです。


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