高次脳機能障害は自賠責保険の認定が厳格であること
高次脳機能障害は、脳内の神経細胞の損傷により発症する病気ですが、現代医学において、脳内の神経細胞の損傷を直接確認する検査方法は、未だ確立されていません。
それ故に、自賠責保険では、現時点の医学において、ほぼ間違いなく脳内の神経細胞に損傷をきたしていると判断できる被害者に限り、高次脳機能障害と認定するというスタンスと採っています。
つまり、交通事故により高次脳機能障害を発症した被害者のうち、現代の医学でほぼ確実に脳内の損傷が確認できる被害者のみを救済して、残りの被害者については、眼を瞑らざるを得ないと判断しているのです。
そうである以上、被害者としては、確実に自賠責保険の定める要件に該当するように、適正な時期に適正な検査を受けて、適正かつ正確な審査書類を提出していく必要があります。
自賠責保険が重視しているとされる要件は以下の3点です。
ⅰ 脳の受傷を裏付ける画像所見
ⅱ 一定期間の意識障害
ⅲ 記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等の具体的な症状
自賠責保険が損害調査を委嘱している損害保険料率算出機構が、交通事故による高次脳機能障害の認定の専門的な機関で有ることから、基本的には裁判所も上記3要件を重視しているのが実情です。
ⅰ 脳の受傷を裏付ける画像所見
CTないしMRIにより、
・急性期の画像で脳挫傷痕ないし点状出血痕の所見
・事故後、経時的に撮影した画像で脳室拡大・脳萎縮の所見
が認められるような場合には、自賠責保険の重視する要件を充足するといえます。
微細な外傷の診断においては、拡散強調画像(DWI)や磁化率強調画像(SWI)によるMRI撮影が有効とされていますので、早期にこれらのMRI撮影を受ける必要があります。
特に受傷から3~4週間以上が経過すると、微細な損傷所見は消失することがあるといわれていますので、受傷2~3日目の早期から検査を受ける必要性が高いといえます。
複数個所の骨折等の重度の外傷を併発している場合には、医師が骨折等の外傷の治療に気を取られてしまい、高次脳機能障害の可能性に気付かず、脳の画像を撮影しないことがありますので、注意が必要です。
厳密には、CTやMRIで直接、脳内の神経細胞の損傷を映し出すことはできず、出血痕や脳の縮小から間接的に脳内の神経細胞の損傷を推測しているにすぎませんので、高次脳機能障害を発症したとしても、必ずしも、CTやMRIに所見が出るわけではありません。
そこで、近時、CTやMRIに所見が認められなくとも、PET、SPECT、拡散テンソル等の検査の結果から、高次脳機能障害と診断される医師も少なくありません。
このような状況は、被害者側にとっては、大変ありがたいことであるのですが、現時点で、PET、SPECT、拡散テンソル等の画像のみで、自賠責保険の認定を受けることは極めて困難といわざるを得ません。
ⅱ 一定期間の意識障害
事故後、
・刺激しても目を開けない程度の重度の意識障害が6時間以上継続
・健忘症ないし軽度意識障害が1週間以上継続
が認められるような場合には、自賠責保険の重視する要件を充足するといえます。
重度の意識障害が6時間以上継続するような場合は、通常、医療記録に記載が残されていますので、問題が生じることは少ないのですが、軽度意識障害が1週間以上継続するような場合は、必ずしも、医療記録に記載が残されるとは限らないため注意が必要です。
特に、複数個所の骨折等の重度の外傷を併発している場合には、軽度の意識障害については、医師や看護師も見逃すことがないとはいえないのです。また、通常、交通事故で被害にあった方は、「自分は正常である」と思いたい気持ちが強く、医師の診察時などには必要以上に気を張って問題がない風を装いがちです。
それ故に、事故直後の意識状態について、ご家族の方が、何か違和感を感じるようなことがあれば、医師や看護師に直ちに伝える必要性が高いのです。
ⅲ 症状の発症
冒頭に記載した記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害の具体的な症状を発症して、右症状を裏付ける神経心理学的検査の結果が認められれば、自賠責保険が重視する要件を充足するといえます。
ただし、複数個所の骨折等の重度の外傷を併発している場合には、医師が右外傷の治療に気を取られてしまい、高次脳機能障害の症状に気付かないということがあるので、注意が必要です。
早期に高次脳機能障害に精通した脳神経外科等で、神経心理学的検査等の検査を受ける必要があります。
高次脳機能障害の症状が発症していたとしても、その証明ができなければ、裁判では認められません。事故から時間が経過してから検査を受けて、症状が確認できたとしても、裁判においては因果関係が否定されることもありますので、注意が必要です。