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東京地裁平成21年3月31日判決-CT、MRIで所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例その3-

 東京地裁平成21年3月31日判決は、札幌高裁平成18年5月26日判決、大阪高裁平成21年3月26日判決に引き続き、CT、MRIにおいて、所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例です。
 

事案の概要

事故態様は、停車中の被害者の車両に、加害者の車両が後方から時速約60キロメートルで衝突して、被害者の車両の後部を大破させ、更に4.2m先に停車していた車両に被害者の車両を衝突させて、被害者の車両の前部を大破させて、全損に至らしめたという内容です。
被害者には、CT、MRIにおいて所見が認められませんでした。
事故時、被害者は、声を掛けられても、「ボーとした状態」であり、自動車から車外に出てくるように促されても出てくることができないという意識状態であり、衝突時の記憶を失っていました。

自賠責保険は非該当の判断でした。

しかし、裁判所は、被害者が事故により高次脳機能障害を負ったと判断し、後遺障害等級5級2号ないし3級3号に該当すると認定しました。
 

認定のポイント

 事故の衝撃

事故態様は、停車中の被害者の車両に、加害者の車両が後方から時速約60キロメートルで衝突して、被害者の車両の後部を大破させ、更に4.2m先に停車していた車両に被害車両を衝突させて、被害者の車両の前部を大破させて、全損に至らしめたという内容でした。
つまり、本件事故において、被害者は相当な衝撃を2回受けていたということになります。
事故時、被害者には、眼瞼擦過傷及び後頭部に出血を伴う挫傷が認められ、縫合処置が施されており、頭部に強い衝撃を受けたことが認められます。
 

画像所見

平成14年 2月19日 本件事故発生
平成14年11月 5日 脳血流SPECT検査 両側頭頂葉から左側頭葉に血流低下
平成16年 7月 9日 脳血流SPECT検査 後頭葉・左側頭葉内側に血流低下
平成18年12月 1日 脳血流SPECT検査 両側頭頂葉から後頭葉に血流低下
 
事故後、3回の検査で、両側頭頂葉、後頭葉、左側頭葉に血流低下が認められています。
 

意識障害

事故時、被害者は、声を掛けられても、「ボーとした状態」であり、自動車から車外に出てくるように促されても出てくることができないという意識状態でした。
意識障害としては、かなり軽微な印象を受けますが、裁判所は、この状態について、「事故後短期間であるが意識障害があった」と認定しています。
 

症状

被害者は、国立大学大学院を優秀な成績で修了して、修士の学位を取得して、事故直前には、有限会社を立ち上げて、自ら代表取締役となっていました。
しかし、事故後のWAIS-RではIQ58と一般的には知的障害と評価されるレベルの結果が出ており、長谷川式簡易知能評価介スケールでも、12/30と一般的にはやや高度な認知症と評価されるレベルの結果がでています。
知能検査の結果が良い場合でも、高次脳機能障害の症状が認められることは多いのですが、本件では、知能検査の結果が大きく落ち込んでいると推測されることに加えて、高次脳機能障害特有の記憶障害、学習障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等も認められています。
 

医師の診断

検査を受けた病院の主治医の診断に加えて、裁判所で鑑定が行われています。
鑑定医が、原告の症状について、本件事故による高次脳機能障害と判断することに肯定的な意見を述べられています。
 
本件においては、この鑑定医の意見が大きなポイントとなったと推測されます。
 

コメント

本件において、高次脳機能障害が認定された最大のポイントは、裁判所鑑定で、鑑定医が肯定的な意見を述べられたことにあると思われます。
 
 本裁判例によれば、CT、MRIで所見が認められなくとも、以下の場合には、訴訟により、救済される余地があるということになります。


 1  事故の衝撃が相当程度大きい
 2  軽度ではあるものの、意識障害が認められる
 3  複数回の脳血流SPECTで、ほぼ同一箇所に所見が存在する
 4  事故前後の変化について、一定程度客観的に証明できる証拠が存在する
 5  鑑定医が肯定的な意見を述べている
 
本裁判例に倣うとすれば、
事故態様が相当程度であることに加え、事故前後の変化が顕著であり、意識障害、画像所見について、最低限の条件を満たす場合には、訴訟提起をして、鑑定を申し立ててみるということが考えられます。
鑑定には費用が掛かるため軽々には選択できないのですが、念頭に置く必要があります。
 
札幌高裁平成18年5月26日判決においても、鑑定の結果は重視されています。
 

札幌高裁平成18年5月26日判決、大阪高裁平成21年3月26日判決との共通点

 いずれの裁判例においても、事故前後の症状の変化がかなりの程度明確であるということが共通しています。
3つの裁判例からいえることは、事故前後の症状の変化が、事故後の神経学的検査以外の証拠により、明確に立証できるのであれば、意識障害、画像所見については、一応、所見が認められる程度であっても、訴訟で救済される余地があるということです。