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桝田・丹羽法律事務所

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自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(平成23年3月4日付)

 国土交通省の指摘

平成22年の時点で国土交通省から、以下の指摘を受けていることが明らかにされています。

・現行の認定システムでは認定されない高次脳機能障害者が存在するとの指摘がある
・特に軽傷頭部外傷を中心に検討すべき

専門家の意見陳述

3人の医師から以下のような意見陳述を受けています。

・軽症頭部外傷の症状が軽い形態である脳震盪において、少数ではあるが脳震盪後の症状が永続して存在する可能性があることは意に値する。
・1回限りの軽症頭部外傷の一部の患者では記憶障害、注意障害等の症状が遷延したり遅発したりすることがある。

検討委員会の意見

 検討委員会から以下の意見が出されています。

・PET、fMRI、DTI(拡散テンソル)などの神経画像検査法の多くは軽症頭部外傷の亜急性期に、微細な脳損傷が起きていることを示し、症状を説明する客観的根拠になるとする論文がいくつか発表されている。
・頭部を打撲した患者で、CT、MRIの所見がなくとも、受傷時に(軽度であったとしても)意識喪失、錯乱または見当識障害、外傷後健忘、神経学的徴候のいずれかが認められた場合、認知障害及び非特異的自覚症状が持続することがある。心理社会的因子の影響によるという考え方が有力であるが、器質的脳損傷による可能性を否定することも難しい。

報告書の結論

結論として、
CT、MRI等の画像所見
相当程度の意識障害
を重視する姿勢は変わっていません。
 
しかしながら、以下のようなことも述べられています。

拡散テンソル(DTI)、fMRI、MRスペクトロスコピー、PETについては、それらのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。 
・軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については、それがWHOの診断基準を満たすMTBIとされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害と評価することは適切でない。ただし、軽症頭部外傷後に脳の器質的損傷が発生する可能性を完全に否定することはできない。したがって、このような事案における高次脳機能障害の判断は、症状の経過、検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。

コメント

本報告書では、いわゆるMTBIにおいても、脳の器質的損傷が発生する可能性があることが明言されています。
また、PET、fMRI、DTI(拡散テンソル)などの神経画像検査法について、直ちに否定するのではなく、これらのみでは、脳損傷の有無等を確定的に判断できないとされており、意識障害や神経心理学的検査の結果等を含めた総合的な判定の可能性があるとも解釈できる余地を残しています。
 
全体から読み取れることは、自賠責保険として、
CT、MRI等の画像所見
相当程度の意識障害
という判断要素を堅持する立場は崩さないものの、一応、他の検査手法についても理解を示しているということです。
 
自賠責自身、現行の認定システムでは、認定から漏れてしまう被害者が一定数生じているであろうことを認識していると読み取れることは、平成19年の報告書と共通しています。
 
結局、自賠責保険の認定システムから漏れてしまった被害者については、裁判を通じて救済を求めるほかないということになります。