静岡地裁沼津支部平成28年12月16日判決
事案の概要
平成24年 3月19日 受傷(原告車両が停車したところ、後方から追突された。修理費103万5920円)
平成25年11月19日 症状固定
自賠責保険の判断
①頚部痛、右上肢痺れ、両肩痛み
②両側耳痛、めまいについて
→各々14級が認定されています。
裁判所の判断
【被告の主張】
①頚部痛、右上肢痺れ、両肩痛みについて
本件事故の2年半前の平成21年8月21日付け頚椎MRIにて「生理的前彎消失」「骨棘形成」「第3頚椎以下の各椎間板後縁に膨隆疑い」「C3/4で頚髄は正中から軽度圧排」「C4/5も正中から圧排」「C6/7では正中やや左側優位の圧排」
②両側耳痛、めまいについて
E大学病院でのABR(聴性脳幹反応)検査において正常
原告自身が加減できるオージオグラム検査の結果と乖離している。
※ABR検査は、被検者の意思が介在しないとされています。
裁判所は
①頚部痛、右上肢痺れ、両肩痛みについて
被告の主張をほぼそのまま採用して、原告が過去に頚椎症、椎間板膨隆と診断された既往症があるとして、自賠責の認定した14級の後遺障害について、事故との因果関係を否定。
②両側耳痛、めまいについて
こちらも被告の主張するE大学病院でのABR(聴性脳幹反応)検査において正常との結果を重視して、原告が耳鼻科関係の傷害を負ったと認めることはできないとして、自賠責の認定した14級の後遺障害について、事故との因果関係を否定。
治療期間についても、事故と因果関係が認められるのは3ヶ月と認定(実際は、約1年8ヶ月通院)。
その結果、損害額は既払い金で塡補されているとして、請求自体、棄却されています。
弁護士の所感
本件は、修理費103万5920円であり、事故自体は、かなり大きなものであったことが推測されます。
しかし、通院期間についても、3ヶ月しか認めないという厳しい判断が下されています。
このような厳しい判断が示された理由は、大きくは以下の2点にあるかと思われます。
①既往症の存在
②原告の意思が介在しない検査であるABR(聴性脳幹反応)検査において正常との結果
いずれも、被告による送付嘱託による医療記録の取り寄せにより判明したものと推測されます。恐らくは芋づる式に事故前の記録も出てきたものと推測されます。
送付嘱託により判明した事実と、原告の主張する事実に、明確な齟齬が認められ、全体としての信用性を大きく疑われてしまった事案と思われます。
訴訟提起する前には医療記録を全て取り寄せて、既往症がないか、主張と矛盾していないか、分析する必要性があるといえます。