症状固定時期が争われる場合③
2015/06/08
-加害者側が、後遺障害診断書に記載された症状固定日には症状固定していないとして、その時点の可動域制限や状態より改善していることを主張して、逸失利益・後遺障害慰謝料の一部について、争ってくる場合-
加害者がこのような争い方をするのは、更に治療を継続すれば、より軽度な後遺障害しか残らない可能性があるからです。
特に治療方法として、手術などが考えられる場合には、大幅な改善もあり得ないわけではないため、問題となります。
このような場合、手術等の治療方法が身体に与える負担を考慮すると、手術等を受けたくないという被害者の意思を尊重する必要があります。
したがいまして、基本的には症状固定を肯定した上で、因果関係の制限又は、過失相殺による減額により公平な結論を導くというのが基本的な裁判所の考え方といえます。
この因果関係の制限や過失相殺による減額を行うべきか否かの考慮要素について、髙木健司裁判官は、2013年赤本講演録において
①これまでの治療経過及び症状経過
②今後の治療継続による改善の可能性の程度
③治療方法の一般性の程度
④治療方法の身体への負担の程度
⑤現在の症状
⑥医師の判断等
を挙げられています。
ただし、減額されるにしても、その対象は後遺障害に係る損害に限定されるべきです。
【東京地判平成24年3月16日判決】
この事案は、交通事故により橈骨遠位端骨折を負った被害者が、橈骨の変形治癒により、後遺障害等級10級に相当する可動域制限が残ったというものです。
加害者側は、変形矯正手術により、症状の改善が合理的に期待できるから、未だ症状が固定していないとして、症状固定の事実を争いました。
裁判所は、手術は身体への侵襲を伴うので、被害者に手術を強制することはできない等として、医師の判断のとおり症状固定に至ったことを前提に、10級の後遺障害等級に該当することを認めました。
しかしながら、手関節の変形癒合が生じたのは、適切な時期に手術を受けなかったことが原因であるとして、90%の限度で交通事故と相当因果関係のある損害と認めました。
このように、他に治療方法があるから未だ症状固定していないと争われたような場合には、前述の裁判官が挙げられている①~⑥の要素を丁寧に主張・立証して、加害者側が主張するような治療方法を選択しないという判断が合理的なものであることを裁判官に納得してもらう必要があるといえます。
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